四月某日
新しいアルバイトは某ニクロに決定。交通費まで出してくれて時給950円なので気が付いた時にはパイプ椅子に座って面接をしていた。
最初の10時間くらいはオリエンテーションとして会社説明動画やスライドみたいなやつを見せられるのだが、ずっと見せられていると、心なしか愛社精神みたいなものが生まれそうになり、社員教育の底力を見せつけられてしまう。
最近はなんだか周辺が騒がしい某ニクロだが給料を考えるとそれ以外の選択肢はない。背に腹は代えられぬなのである。
四月某日
面接を受けに福岡へ。車で新潟まで3時間、新潟から飛行機で1時間半の道程である。
九州に行くのは人生初で、完全な旅行気分だったが、道中明日の面接は私服で来いとの連絡が入り、スーツは一瞬にして用なしになってしまった。
4月末だが福岡は気温20度、山奥で桜が咲いている東北とは別世界である。気候が違うので街路樹の種類もだいぶ違う。田舎のほうでは、柑橘類が栽培され、小学校で習った二毛作(麦畑)を目撃。23にして遅れてきた修学旅行をしている気分であった。
旅行気分とはいえ金はないので食事は、ジョイフル、資さんうどん、ウエストと九州を代表する(?)チェーン店を攻める。ニクラジで知っていた名前がここで役に立って少しうれしい気持ちになった。
釜山で会った日本人の友達に会えたのもよかった。いろんなところに行けば行くほど、全国津々浦々、友達が増えるのはかなり調子がいい。
六月某日
独学で韓国語を学習中だという、二回りくらい上のおばさんとLINEを交換する。
額面通りに受け取るとちょっと怪しいにおいがするが、やりとりは韓国語のみ、文法の間違いを正したり、語句の選択についてアドバイスをしたりしている。
しかし、私がその人とLINEをしていることに関して周囲の人たちは「ウケる、クスクス」みたいな感じである。その「クスクス」が、私とそのおばさんがLINEをしていること自体に対するクスクスなのか、そのおばさんが韓国語を勉強していることに対するクスクスなのか、どちらなのかはわからないがめちゃめちゃ気分が悪かった。
韓国語を勉強してきた身としては、「クスクス」はもちろん、ただのKPOP好きに思われたり、あからさまに「何の役に立つの?」みたいなことを言われることも結構多く、なんとなく勉強していること自体が後ろめたいこともあった。とはいえめいめいがそれなりの動機を持っている勉強しているところに水を差すのは、よくないことである。など、、、
六月某日
バイトをしながら腹が立つことの一つに、「とにかく何を見てもかわいいというやつがクソみたいに多い」ということがある。
本当にかわいいと思っているから「かわいい」と言っているのかもしれないがそんなことはどうでもいい。いいと思った服をみたら「かわいい」、父親なり彼氏なりによくわからないシャツを着せて「かわいい」、「かわいい」が自動的に出てくるコンピューターを積んでいるかのように、とにかく「かわいい」といっているのが本当に目に余る。
思えばひと昔前まで、若いもんは何を見てもかわいいと言う、みたいな言説があった。しかしそんなものは所詮中央の人間の話である。山形のヤングたちが自発的にかわいいかわいい言うわけがないのである。
一昔前、急にテレビが「若いやつらは何を見てもかわいいと言う」みたいな言説を流布し始めたので、それに乗っかりかわいいと言い出し、一億総かわいい社会になってしまったのではないかと筆者は踏んでいる。
六月某日
大谷のナイスガイぶりを必要以上にメディアが持ち上げるので嫌気がさしてきた。
デッドボールをくらってもピッチャーに微笑みかけ、グラウンドにゴミが落ちていればしれっと拾ってポケットに入れる。一人の人間としては非の打ち所がないメイクアップだが、メジャーリーガーとしては明らかにもの足りない。
クレメンスがピアザの折れたバットを投げ返したときの興奮をオールドスクールなMLBファンは忘れてしまったのだろうか。テクノロジー野球の先鋭化でエキイサイティングな要素が失われた今、球界は大谷翔平のバッドボーイ化を待望している。ファンはみな、デッドボールを食らったらスーパーマンのような体躯でピッチャーに向かっていく大谷翔平が見たいのである。